歯ぎしりは、大人のみならず子供にもみられる現象で「小さい子どもが結構な頻度で歯ぎしりしているけれども大丈夫ですか?」という質問を受けます。
歯ぎしりは、ストレスを緩和する目的があるともいわれています。
ウェブ上では小さいお子さんの歯ぎしりに対して誤った情報もあるので(必要に応じて矯正治療や、歯ぎしり防止装置を使用した方が良いなどの)、正しい情報も含めて詳しく説明していきます。
1.一般的には子供の歯ぎしりは治療を行わなくても良い
写真:大人に使用する歯ぎしり防止装置
大人特に中高年になって歯ぎしりをしていると大きな問題が生じることがあります。
それは歯周病がある人では特に問題が生じやすくなります。
歯周病に歯ぎしりが加わると歯周病の進行が加速度的に早くなってしまうからです。
その他に大人に歯ぎしりがが強いと歯が折れたり、歯に被せた修復物がとれてしまいます。
歯が折れてしまう場合でも修復可能の折れ方と修復できない折れ方の2種類があって、修復できない折れ方をしてしまうと抜歯の可能性が高くなってしまいます。
しかし、子供の場合はまだ歯周病もありませんし、歯ぎしりを行う筋肉の発達も不十分ですから、大人ほどには深刻な問題を生じる可能性は少ないのです。
問題が生じた時に歯ぎしりが起こった後に生じる問題に対してアプローチを行うことになります。
大人の治療のように、自己暗示療法や歯ぎしり防止装置を使用する必要はまずないと考えて良いでしょう。
2.子供の歯ぎしりに対する治療法について
歯に詰めるプラスチックのような詰め物 コンポジットレジン
一般的には、歯ぎしりする子供には特別な治療法は必要ありません。歯ぎしりによる問題が生じた時に局所的に治療を行うことになります。
1)歯が大きくすり減ってしまった場合
乳歯であればある程度の歯のすり減りが大きくなることはありますが、はえたての永久歯ですり減りが大きくなる事はほとんどありません。
これは歯の硬さも影響していて、乳歯の硬さが永久歯の半分程度という事が関係しているでしょう。
そのため、今回は乳歯に限って説明していきます。
歯ぎしりの影響で、稀に非常に大きくすり減ってしまって、歯の神経にまですり減りが達してしまう事があります。
この場合は歯の神経に対するアプローチを行わなければなりませんが、このようになるまで歯ぎしりを行うことは少ないです。
歯の神経にまで、歯のすり減りが達してしまった場合は歯の神経に対する処置をしてあげなければなりません。
歯の神経に対する処置が終了してから、全体的な噛み合わせを含めた修復処置を行わなければなりません。
2)歯のすり減りがそれほど大きくない場合
歯のすり減りが強くない場合は、多くの場合ではコンポジットレジンというプラスチックに似た材料で修復してあげて様子を見る事が多いです。
ただし、このコンポジットレジンは自分の歯よりはすり減りが激しいことが多いのでコンポジットレジンの部分だけすり減るという事もありえます。
そのような場合は噛み合わせに不都合を生じることがあるので注意が必要です。
また、コンポジットレジンは歯に対して強力な接着力を持っていますが、劣化や人による過誤(ヒューマンエラー)もあるのでとれてしまう危険性もあります。
これらのことを考えると定期的なチェックが必須になります。
チェックの割合は、脱落やすり減りによって異なりますので歯科医にリコールの時期を指定してもらうか、実際に保護者の方が見てみて(明らかにすり減りや脱落、部分的にしか噛んでいないなど)判断するのが良いでしょう。
3)歯ぎしりには色々な種類がある
(1)音がしない歯ぎしりについて
一般的な歯ぎしりと言われるように、歯ぎしりと言うくらいなので「音がする」と考える方も多いでしょうが、同じ場所でくいしばる場合(クレンチングと言います)は音がしない歯ぎしりになります。
この時にも強い力がかかりますが、このような歯ぎしりをする場合は、歯が全体的減る事があります。
この場合で噛み合わせに問題が出る場合は、プラスチックに似た材料であるコンポジットレジンによって噛み合わせを整えてあげる必要が出てきます。
そのため、寝ている時に音がしないので歯ぎしりをしていないとは考えない方が良い場合がありますので注意が必要です。
音が出ない歯ぎしりもある事を理解して、このような場合は実際にお子さんの歯をみてみてすり減りが大きくないかどうかチェックする必要があるのです。
(2)音がする歯ぎしりについて
音がする歯ぎしりが一般的ですが、この場合は寝ている間に歯を大きく動かす歯ぎしりのパターンになります。
このタイプの歯ぎしりの場合は、多くの場合にある特定の歯をすり減らす事が多くなります。
特定の歯だけ大きくすり減るために、その歯だけ噛まなくなってしまうことがあります。
音があまりに強い場合はやはりお口の中をチェックしてあげて下さい。
そして、すり減りが大きい場合や噛み合わせに支障が出ていると判断した場合は歯科医院に相談するようにしましょう。
3.子どもの歯ぎしりに対する誤った治療法について
1)歯ぎしりを抑制するために矯正治療を推奨すること
色々なサイトを見てみると歯ぎしりに対して矯正治療を行い、歯ぎしりを抑制しようとする治療法について書かれたサイトがあります。
私自身日本矯正歯科学会の認定医を取得していますが、日本矯正歯科学会で子どもに対する歯ぎしり抑制の矯正治療に関する治療法について行われた研究はありません。
大人では、噛み合わせを作る時に歯ぎしりに対して考慮した噛み合わせを作った方が良いと考える考え方はあります。オーストリア学派と呼ばれる順次誘導咬合(シーケンシャル・オクルージョン)と呼ばれる考え方です。
しかし、乳歯や乳歯と永久歯が混在している混合歯列期にそのような歯ぎしりに対する考慮した噛み合わせの考え方はありませんので矯正治療によって歯ぎしりを抑制するという考え方は矯正医には存在しません。
そのため、歯ぎしりによって矯正治療をすることはありえないので注意が必要です。
もし、異論がある場合は是非ご教授下さい。宜しくお願い致します。
2)乳歯に歯ぎしり防止装置を使用すること
大人においては、歯ぎしりが激しい人に対して「歯ぎしり防止装置」と言うプラスチックに似た材料であるレジンを用いた装置を使用する事があります。
正しくはこの装置は歯ぎしりを防止する訳ではなくて、装置の効果としては歯ぎしりを行なった時に歯や被せ物にかかる力を少なくする装置で、この装置を使用したことで歯ぎしりが無くなる訳ではありません。
考え方としては、プロテクター的な役割をすると考えた方が良いでしょう。
このような装置を乳歯の時期に使用することは通常ありえまえせん。
もし、乳歯列期に「歯ぎしり防止装置」を使用して画期的効果を上げたという方がいらっしゃいましたら後学の為に勉強させて下さい。
宜しくお願い致します。
3)乳歯の歯ぎしりでは噛み合わせに問題が出ない限り積極的な治療は行わない
結局、乳歯時期の歯ぎしりでは筋肉の関係上それほど大きな害を及ぼさないと言われています。
理由は大人では咬筋という非常に大きな力を発揮する筋肉が歯ぎしりに大きく関係していると言われていますが、乳歯時期では側頭筋というそれほど大きな力を発揮しない筋肉が歯ぎしりに関係していると言われているからです。
また、筋肉の発達自体も大人よりも小さいこと、歯周病が存在しないこと、神経がある歯まで割れてしまうほど大きな力がかからないなどの理由があります。
そのため、大人ほど歯ぎしりに対する配慮は必要ないのです。
YOU歯科 院長 歯学博士 石井 教生